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私は文章しか書けない

http://bluenwhite.hatenablog.com/entry/2017/01/28/075235

「これしかできない」

ある平日の昼過ぎに山奥のカフェで人と会っていたら、彫刻家の安田侃さんが現れた。別に仕事をさぼっていたわけではない。そもそも、きちんと仕事をすることとカフェでくつろいだ気分になることは両立できるのだ。

 

そこで何をするでもなく暖炉の前にいる侃さんに、ドキドキしながら声をかけたら、なんとなく彼の自宅兼アトリエに誘われてしまった。ふと目に留まった道端の小さな花を摘んで帰るみたいに、得体の知れない人間を家に招いてしまうなんて、芸術家はわりにひまな職業なのかもしれない。

 

もちろん私は仕事そっちのけでついて行った。これは誰になんと言われようが仕方ない。著名な芸術家には口説き文句なしで女性を自宅へ招き入れてしまう、ある種の特権的な魅力がある。

 

制作途中の作品がならぶアトリエを手持無沙汰にうろつきながら思ったことは、飽き飽きするくらいにどれもこれも表面がつるっとした空豆みたいな形をしているということだ(失礼だ)。不思議に思って聞いてみると、曰く「これしかできない」そうだ。

 

なるほど、英語ができて、中国語もできて、さらにプログラミングまでできる「なんでもできる」人より、案外「これしかできない」から「こればかりやる」人の方が、長い目で見ると特定の分野に詳しくなったり、ひとつの技が磨かれたりして、頭角をあらわすものかもしれない。

 

ちなみに私は「人前で上手く話せない」「金儲けができない」「社交辞令が言えない」とできないことはいくらでも挙げられそうだけれど、逆に「これしかできない」を見つけるのは意外と難しいものである。ともあれ「これしかできない」という生き方はすごくシンプルでカッコいいよね。